光る泥団子


朝日らんだろう新聞 小学生新聞の特別号 2017年6月号

「せかいに一つしかない どろだんごをつくろう」

タブロイド判トップページと11面に、子供向けではありますが、土の採取から光る泥団子を作るまでの制作プロセスを可能な限りわかりやすく書いてみました。入手が難しいかもしれませんので、コメントをいただければ、コピーしたものをメールで送らせてもらいます。
このHPトップページの「フェイスブックの「SOIL ART」のページ」
にもコピーを掲載してあります。

「NHK ヒミツのちからんど からだ アート 音楽 のちから」NHK出版(2009.10)に
「宝物のような泥だんごをつくろう!」が収録されています。
現代大津磨き(千石磨き)を施した光る泥団子を放送内容にかなり手を加え詳細な解説をしています。
このページの下記記載の方法と併せて読んでいただけると理解が深まると思います。


 2014年「ぶらり途中下車の旅」旅人永島敏行氏。この取材の様子を、「にこにこネット」の
       草柳ちよ子さんが、「光る泥団子」の製作過程までに及んで、とても丁寧にレポートをしてくれています。


土壁から光る泥団子まで

 人類が最初に身を守るために使った材料が土でした。
器を作り、木の枝を集めその回りを土で固め屋根や壁を作り、炉を作り、土を耕し食物を得る。
特別な道具を必要とはせず、適度な水を加えると指などで押すとその形が残る性質をもち、乾くと石のようにかたくなり、熱を加えると水も通さない焼き物になる、そんな素晴らしい材料です。
さらに、焼かないで使った土は、水に浸けるとまた元に戻り、何度でも使うことが出来る材料であることも他の木や石とは大きく違う材料です。
 今でも、世界中色々な場所で、何千年も前と同じ方法で土を生活に役立てている所がたくさんあります。

 土が石  のように硬くなるのには、土の中の粘土分がどの位有るかによって決まってきます。
砂漠では、あんなに周りが土なのに砂が多いので、あの土を固めることは出来ません。ですから、砂漠の人たちは、家の壁を動物の皮や植物あるいは石で作っているのです。

  土は固まる途中、中の水分が無くなるにつれて収縮を始めヒビが入ります。
ですから、水田に水が無くなると、畑一面に割れ目が出来て、色々な模様が出てきます。
この模様を意識的に使って面白い効果を出す工夫をすることは有りますが、一般的にはヒビ割れは防ぐような工夫をします。
ひび割れを面白くいかした時計のパネル

 土壁など、ひび割れが困る場合は、粘土分の多い土・砂・スサ(主に藁や麻などの植物繊維、羊毛などを使うところも有ります)、この三つを上手くブレンドして使います。

 雨が少なく,地震の無い所では木の枠に泥を詰めて、天日で乾かしただけで日干しレンガをつくり、それを積み上げて家を造る方法があります。
日本では、地震がありますから無理なのですが、部屋の中の壁を、この日干しレンガを積み上げたり、泥団子をつくり積み上げて仕上げることがあります。

 こうやって作った、日干しレンガや泥団子はうまく作ると石のように硬いものが出来ます。
 この泥団子をまん丸にして磨いて光らせたものが、光る泥団子です。
粘土は2/1000ミリ〜5/1000ミリ以下というとても細かい粒子で出来ている鉱物です。
粘土分の多い土の固まりを水で湿らせ指でこすったり、ナイフなど鋭い刃物で切ると切り口はピカ−っと光ります。
この土の性質を上手く引き出し丸めてあげれば、綺麗な光る泥団子が出来るわけです。

左官技術を応用した誰にでも出来る光る泥団子の作り方
 
左官(さかん、しゃかん)という言葉が今や死語になってしまったようですが、土や石灰などの材料を使って壁を塗る職人のことです。
ここでは、日本に古来から有る土壁の製作法と、雑巾がかけられる光沢のある大津磨きという土壁の左官技術を応用して誰にでも確実に作れる方法をお教えします。

作り方は簡単ですから、まず基本的な事柄をしっかり理解してください。
泥団子製作には
1. 土を固める
2. 土を丸める
3. 土を磨いて光らせる
という三つの要素があります。

粘土の入手

土は2ミリ以上のレキ(礫)、0,02ミリ以上の砂、0,002ミリ以上のシルト(砂と粘土が混ざり合っているもの)そして0,002ミリ以下の粘土と大きく分類されます。
この土の成分の中で固まる性質を持っているのは粘土だけです。
地層の中から粘土混じりのシルト層や粘土層を見つけてくればいいのですが、都市部に生活している人たちにはビルの地下工事でお目にかかれるくらいで、めったに出くわすものではありません。
シルト層や粘土層を掘り出すためには、通常シャベルなどでは刃がたたずピッケルのようなものが必要です。
表土は礫や砂に混じって粘土が有ります。この粘土分がどの位有るかによって、固まる力が違ってきます。
粘土分がどの位有るのかを簡単に調べる方法は、ペットポトルに土を半分、水をボトルの8分目位入れよく振ってから静置して一晩おいてください。土の中の重い礫や砂は沈み粘土が上の方に溜まっています。水と土の境目でペットポトルを切って、上水を出してから土の中に指を入れヌルヌルとした物が粘土です。この部分の多い少ないによって固まる力が違ってきます。
山などに出かけたとき、綺麗な色の土に出くわすことがあります。
この土の粘土分を見分けるには、少し掘り出して表面に水分を与え指で強くこすってみてください。太陽にかざして表面が光っていれば、粘土分の多い土です。もう一つの調べる方法は、採取した土に水を加え、つき立てのもち程度にして、土の紐を手の中で作ってみてください。これができれば粘土が多い土です。
日本は水田の多い国です。水田の下の土は粘土が有るから水が溜まるのです。
最も簡単な粘土の入手方法は、陶芸用粘土や園芸用荒木田土(荒木田土は土壁の下塗り土として用いられてきました)を手に入れることです。

(荒木田土は、もと東京荒川沿岸の荒木田原に産した土です。現在は産地にかかわらず水田・沼などから産する同種の土をいいます。産地によりなかり黒っぽいものから茶色までバリエ-ションがあります。壁土や園芸用。相撲の土俵の盛り土にも用いられています。)

重要な注意!

 自然素材だからといって安全であるとは限りません。自然界はそれぞれの生存権を脅かすものに対して種族維持の本能を持ち合わせているといわれます。漆などは顕著にそれを現します。土は鉱物なので事情は異なると思いますが、粘土の中で生活している細菌類は無数に存在します。このことを忘れないようにしましょう。
 私が現在関係している仕事で沖縄の「ケチャ」と呼ばれる粘土に付いて調べていたところ、以下のようなレポ−トが有りました。

沖縄本島南部の土壌はジャーガル, 島尻マージと呼ばれる特殊土壌からなっている。これらに共通する成分は, その半量近くを占めるシルト岩である。この泥岩とよばれるジャーガル(X線回析分析の結果, Si, Al, Fなどを多く含む雲母などと類似の鉱物である)は乾燥すると岩状を呈し微細な粒子が粘土で固まったもので, 脆く容易に粉末となる。この粉末が強風に煽られ, 微細な粉末として空気中に浮遊し, 容易に住民に吸引されると思われる。この吸引が沖縄での呼吸器障害の多発に関与している可能性が高いと考え, 実験的にマウスに吸引させ人工的に塵肺症を作る実験を継続している。エアロゾルの吸引では曝露1カ月では著変はないが, 2カ月目から急激に肺内沈着量が増加して肺病変が多発し, やがて異物性肉芽の像を呈することが証明出来た。(伊藤悦男, 嘉陽清美, 宮城恵利子 琉球医会誌 )

また、無数に居る土中の細菌、放線菌、糸状菌(カビ)の大半は粘土の中で生活しており、砂ではごくわずかだと名古屋大学木村眞人氏が述べています。

 ベントナイト粘土を食料品の増量剤に使っていたり、口紅、糖衣錠等口にふくむものに粘土が使われていますので、胃袋を通過するものはあまり危険がないのかも知れません。(この点に関して情報が有れば是非お願いします)
問題は呼吸器系なようですから、乾燥した土をフルイにかけたり団子を作るとき微細な粘土粒子が飛散することは出来るだけ避けてください。

泥団子の構造

中側から
芯になる部分  粘土分のある土を3ミリでふるい、砂、ワラを混ぜ合わせたたもの。
中塗り     芯に使った土を2ミリでふるい、2ミリでふるった砂、ワラを混ぜ合わせたもの。
仕上げの下塗り 白土に裏ゴシでふるった砂を混ぜ合わせたもの。二回塗り。
仕上げ     色土(100〜200メッシュでふるった土)・生石灰クリ−ム・糊を混ぜたものを最低二回塗り。

この写真に見る泥団子の構造は上記のようになっていますが、中塗り以降については、中塗りを薄く塗る方法、砂漆喰を使う方法、仕上げの下塗りを仕上げ土と同材で行う、あるいは省く方法などがあります。
いずれにしても仕上げに近づくほど表面に凹凸が出ないように仕上げていきます。
この団子には、土壁との共通性をみるためにワラを入れていますが、団子を作るには、特に必要がありません。

製作方法

初級
 ごく普通に皆さんが作っている「光る泥団子」の最も簡単な方法です。
土は、粘土分の多いものが見つかる場所に住んでいる人は良いのですが、東京など見つけるのが困難な場合を考えて、ここでは園芸店から「荒木田土」を購入して作ることにします。

用意する物
荒木田土、砂(砂場や海砂で良いです)、作る団子の直径より少し小さめな口で手に持ちやすいビン。

1. 荒木田土を作りたい団子の大きさに見合う分を袋から取り出します。
2. 荒木田土の量の2〜3割程度の砂を混ぜ水を加えて良くこね合わせます。つき立てのもち程度の水の量を目安にします。
3. こねあがった土を適当に丸めて(水分が多すぎると丸まらなく山形になってしまいますが、それでもいいです)日当たりの良いところに半日ほど出しておきます。
4. 水の量にもよりますが、半日もすれば手の中で丸く出来ると思います。丸くしたら又外に干しておきましょう。
5. 団子が固くなるまで2度ほど手の中で丸めます。(乾燥していない団子を干しておくと団子の下の部分が平らになってしまいます)
この乾燥させている間にできるだけ丸い形を作りましょう。
6. しっかり乾燥した団子ができたら、磨きにかかります。
7. 手の中で十分丸くできた団子の表面は、かなりきれいになっています。
途中の丸める作業をサボると、表面に砂などが出て、荒れているかもしれません。
8. 表面が荒れている場合は、団子を水の中に10秒程度入れてから水を切り、荒木田土に水を加えジャム程度にした土を全体に刷り込むように塗りこんでください。
ここで厚く塗ると、ひび割れをします。
9.団子の表面を湿らせた状態で、布を使ってこすっていけば光り始めます。

注意  磨く前の団子はしっかり乾燥させてください。団子の中に水分があると、表面を磨いてもしばらくすると曇ってしまいます。

中級

初級の方法では最後の仕上げに石灰を使っていませんので、湿度や水には弱く光が長続きしません。
中級以降では、左官技術の応用で強度も光の持続性もある団子を作る方法を紹介します。
この方法をマスタ−すれば、光る泥団子を使って一輪挿し、花器、ネックレス等の装身具、半球の団子、鏝を使えれば大津磨きの壁を塗ることも可能になります。

1. 粘土分の有る土、砂、スサを水で混ぜたものを手で適当な団子を作り乾かす。
(大きさにも寄りますが、天日干しで2.3日。早く作りたい場合は、電子レンジ利用)
2. 乾いた団子を出来るだけ完全な球体にする。
3. 球体になったところへ、粘土分の強い土を水で適度に柔らかくし薄く均一に塗り込む。粘土分が多くてひび割れを起こすようであれば、砂を適当に加える。
(左官仕事ではノロを引くといいます)
4. ノロをかけた団子を鏡面の状態にまで磨き込む。
5. 糊(メトロセルロ−ズ)と石灰を混ぜた土(ここで使う土は、粘土分の多い土を100メッシュ以上の篩を通したものを使います)を薄く均一に塗り込み鏡面になるまで磨き込む。
石灰は生石灰クリ−ムを用いるのが最適です。(生石灰クリ−ムは生石灰に水を加えフッ化させて作ります。大変な高温になりますので製作には十分気を付けてください。)
(ここまですると、表面が多少濡れても大丈夫です。)
以上、作り方はいたって簡単なものです。大きさと乾燥状態にも寄りますが5,6センチ位のものなら1メ−トルくらいの所から落としてもへこんでしまうことはあっても割れることはありません。

作る過程で最も注意することは、それぞれの段階で球体を作るとき、いかに均一な面に仕上げることが出来るかです。
下地段階をおろそかにして仕上げ段階で直そうと考えても決して上手く出来ません。
2番目以降をどの位ていねいにやるかによって、仕上がりは全く違ってきます。

上級

4迄の過程は同じですが、糊と石灰を混ぜた土を多種類作って、マ−ブル模様にしたり、団子の表面に象眼などの方法が出来ます。
ここまでくると、光る泥団子も工芸品として立派な作品になります。
上級の作品を作るためには、初級から中級まで100個以上の団子を作って、いっぱい失敗しながらコツを掴んでください。

色々な泥団子とその応用作品


各地の色土で作った光る泥団子と花瓶、一輪挿し、香炉などの応用作品です。
但し、青の一部には自作の藍と合成藍が、赤の一部には弁柄、黒は松煙を利用しています。

実例作品

トップヘ−ジへ戻る