工期が長くなるという問題
現在建てられている住宅の平均寿命は、約30年と言われています。戸建住宅の工期が一般に4〜5ヶ月ですから5ヶ月として1/72の時間を物理的な生活空間を作り出すために費やしているわけです。この住宅の寿命を100年としたらどうでしょうか。単純計算で工事に要する時間は18ヶ月になります。
100年の寿命がある住まいを18ヶ月かけて造るとしたら、長すぎると考えますか。
「早い、安い、均一」を標榜し発展してきた現代産業には、とてつもないことと思われるかもしれません。しかしロ−ルスロイスを一台発注してから納期まで12ヶ月以上かかります。
「住まい」を現代産業の一環に組み込んできた力はどこにあったのでしょうか。明らかなことは、戦後焼け野原になってしまった日本の住宅事情がその引き金になったことです。そこでは当然のことながら早急に大量にしかも安価に住まいを造り上げることでした。
工期を短縮するために取られた方法は、工法の乾式化に有ります。
工法の乾式化とは、建築工事に際して水を使って仕事をする部分を無くすと言うことです。
代表的な工事が「左官工事」です。昔は、大工と並んで左官は建築工事の中心的役割を果たしていました。しかし、水を使い乾燥を見ながら進めなければならないため、季節や温度条件に左右されスピ−ディ−に仕事を進める上で大きなネックになっていました。そのため建築工事からいかに左官仕事を除外して他の建材に置き換えられないかと考えられたのが、現在主流を占める乾式工法です。
乾式工法の代表的な物が、2×4工法です。簡単に言いますと2インチ×4インチの基準寸法で工場で製材された木材を使って骨組み(軸組といいます)し、両面から合板を打ち付けて、タイルや壁紙を糊付けして造る物です。
これは工場製品化された建材をコンポ−ネントしていくわけですから、工期は極端に短縮されます。
この工法が湿式工法に取って代わろうとする勢いの背景には、強力な「接着剤」の開発が有ります。
しかしこの「接着剤」がいま大きな関心を呼んでいます。強力になればなるほど合成化学物質の御世話にならなければならないからです。そしてその化学物質の一部から「環境ホルモン」というやっかいなものが発生していることが指摘されているわけです。
ですから工期短縮という背景には、化学の力が大きく係わっているわけです。
工期の短縮と引き替えに、人間を含む生物の存在そのものを脅かしているかもしれないのです。