大津磨き壁の工法について

 大津磨きについての解説を探していたところ、ある方から、京都の左官職人が書いたという、以下のような大津磨きの原稿を入手しました。私にとって腑に落ちない点や、疑問に感じることがあるのですが、研究者や職人の方に読んでいただき、誤りやおかしい部分を訂正していただければ幸いです。
ご意見をメ−ルあるいは掲示板に書き込んでいただけないでしょうか。
よろしくお願いします。

 大津磨き壁とは、天然の土を用いて塗った光沢のある壁のことである。この壁は天然の土を磨いて光沢をだすので技術的に非常にむづかしい仕事であるが、出来上がった壁は土のもつ柔らかい光沢と壁肌が得られ奥ゆかしい壁となる。一般には外壁(雨の当たらないところ)の化粧用や階段・廊下等、人がよく通るところに施工される。この壁はあとの手入れ(水拭き・空拭き)に依って永く光沢を保つことができる。(階段や廊下の壁は人の通行に依って壁に着物が擦れて自然に壁の手入れができる)

大津磨きの下地
 
大津磨き壁の下地は、木舞下地で荒壁・裏壁を塗った下地が最も良いが、木摺り下地、石膏ボ−ド下地でも、中塗りまでの付けしろが25ミリ以上あれば施工できる。しかし、中塗土は良質の土ですさの多く入った土を用い、薄く何回にも塗り重ねた中塗を施工しておくことが必要である。

中塗工法
 中塗は土物中塗工法に準ずるが、大津磨き壁は、特に中塗工法の良否がそのまま上塗の良否につながることがあるので注意して施工しなければならない。中塗土は良質の土を選び、砂を控えてすさを多く入れた土を用いる。チリは3センチくらいの間隔にひげこを入れてチリ塗りをする。チリ塗りの乾燥後中塗を施工する。中塗は一回の塗厚を薄くして、何回にも重ね塗りをする。少し中高に塗り充分に斑のないように塗る。
 大津磨き壁の下地(中塗)は、強くて保水性が良く、しかも適度な水引きのある下地(中塗)が望ましい。

上塗用材料
 
大津磨き壁の上塗材料には灰土と引土があり、灰土は上塗施工時の下塗に用いる土のことをいう。上塗土は引土という。
灰土 材料は良質の土と細かいわらすさと石灰を用いる。
   灰土の良否は上塗作業や磨きの仕上がり具合を左右するので充分に材料を吟味して作らなければなら    い。
   土は中塗土・聚楽土・京白土等を用いる。土を0.9ミリ〜1,5ミリのふるいで通し、わらすさは良質で   アクのない切り返しすさ又はミジンすさの節をのぞいた物を用いる。石灰は入手できれば天然風化灰を   用 いる。ふるった土にわらすさを多い目に入れてこねる。こねた土に、その量の5%くらいの石灰を入   れて 一週間以上ネカせて用いる。灰土を用いるときは、その日に使う土にその量の5%〜50%くらいの   石灰を 入れて用いる。
引土 引土に用いる土は、一般に京白土、稲荷土、京浅黄土の塊土を用いる。土は良質の物を選び、塊土を細   かく砕いて、水に2〜3日漬け溶液を作り、60目〜100目のふるいで水通しして用いる。
   すさは紙すさを用いる。紙すさは和紙を水に漬け軽く絞って平石の上などに置き、丸棒で良くたたくと   いう作業をくり返し行い、紙の繊維になったら水に入れ良くほぐす。ホグれたらふるいにあけておく。   水通しした土に紙すさを入れ良くカクハンしてネカせておく。石灰は入れない。上塗をする時にその日   に使う量だけその日に石灰(5%〜30%)を入れて作業する。

灰土工法
 
細かい中塗土(ふるい目1.5ミリ〜2ミリ)を薄く全面に塗る(下地の水引、気候、壁面積の大きさ等に依り省略することもある)。次に良く練った灰土で、塗り厚を3ミリくらいみてチリ塗りをする。柱ぎわより15ミリ〜20ミリくらい控えて中を丁寧にこすり塗りをする。続いてチリ一杯に斑がないように塗る。中を少し高い目に塗る。裏のまわっていない地金コテで,初めは軽くすさを伏せながら斑のないように伏せ込む。
 少ししまってきたらコテを縦・横・斜めに操作して伏せ込む。伏せ込むコテはできるだけネカせて操作し、灰土のしまり具合にあわせて強く重く伏せ込む。コテは縦・横・斜めに操作し端から端まで切らずに通して伏せ込む。コテヌケができてもコテ先などで押さえずにコテ巾一杯に伏せ込み操作をして平らにする。この作業をコナシという。このコナシが充分でないと磨き壁にならない。地金ゴテが重くなったらコナシゴテに変えて伏せ込む。この伏せ込んだ肌が仕上げの肌になるのでコテヌケのない面に仕上げる。このように充分コナせると横から見ると光沢がでてくる。

引土工法
 灰土が充分にコナせたら、引土を15センチ〜18センチくらいの裏のまわったコテで、初めはすり込むように手早く全面に塗る。そのコテ波を消してから2回目をなるべく薄く塗る。水引を見て21センチ〜24センチくらいの裏のまわってない地金ゴテで塗り斑を消しながら伏せ込む。シマリ具合にあわせて重く強く、縦・横・斜めにと丹念に伏せ込む。伏せ込む要領は灰土のコナシと同じようにする。地金ゴテが重くなったらコナシゴテに変えて伏せ込む。コナシゴテで伏せ込むと光沢が出てくる。

雑巾もどし作業
 
引土を伏せ込んで硬くなった壁面の表面に、水を与えて表面のみ元の柔らかさにする作業をモドシという。一般に2回モドシをする。
 手拭いを約8センチくらいに折りたたみ、水をつけて軽く壁面を濡らす。次に少量の水をつけて上からクルクルと丸く回して壁面を軽くなぜると表面がもどってくる。初めは雑巾が重い、この時は水を付けて丸く回すとだんだんと軽くなってくる。軽くなったら充分にモドった状態になるので次に移る。順次下までモドしたら次は雑巾を軽く絞って上から横に雑巾で軽くなぜて雑巾の荒目を消す。チリを拭いて、次は調子の良いコテで雑巾目を手早く消す。続いて地金ゴテで、丁寧に伏せ込み、あとコナシゴテで2回〜3回伏せ込み、続いて2回目のモドシを行う。2回目のモドシは水を少なくし雑巾を軽く操作してモドす。モドったらチリを拭き調子の良いコテで雑巾目を消す。続いてコナシゴテで数回伏せ込む。このころになると色も揃い光沢がでてくる。頃合いを見て磨きコテで仕上げ押さえをする。磨きゴテは3回〜4回で収める。

モヤ取り
 磨きゴテで仕上げてから、しばらく時間をおいてから、フトンでモヤをとる。早いと傷が付くので下の方で試してみて、良いと思われる頃に本格的にフトンを当てる。引き方は左手でフトンを押さえ右手で引く。柱から柱まで一引きに柱きわまでとる。フトンは良質のビロ−ドを使う。中に綿を入れ、25センチ角くらいの大きさの物を使う。

手入れ
 壁が完全に乾燥したら番茶の溶液で壁を拭き、後乾いた手拭いで軽く拭き込む。その後年に2回〜3回拭き込む。
 ワックスを塗ることもある。ワックスを塗るときも完全乾燥後、よくホコリをふき取ってから刷り込むようワックスを塗り乾いた手拭いで充分に拭き込み、浮いたワックスが残らないようにする。

 以上、原文のまま掲載しました。大津磨きに関する記載としてはなかなかお目にかかれない貴重な資料だと思います。各方面の方々のご意見を伺い、より完全な形になることを心より願っています。

この文の作者の方には、貴重な資料を提供していただきましたことを心より感謝申し上げます。
このようなかたちで引用をさせていただきましたことは、失われゆく日本壁の文化を大切にしたいという一心です。なにとぞ寛大なお心でお許し願いたいと念じております。
 
 

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